富士フイルムが運営する写真展(東京・六本木)

  • 利用案内
  • 写真展・イベント
  • フジフイルム スクエアについて
JP / EN

富士フイルムが運営する写真展(東京・六本木)

[image]飛行機と、その周囲の風景や人々が生み出す情景を写す! 松井一記さんへの特別インタビュー

飛行機と、その周囲の風景や人々が生み出す情景を写す!
松井一記さんへの特別インタビュー

SHARE

2022.04.28

普段は公務員として働きながら、飛行機とその周囲の風景や人々が織りなす情景を撮影する松井さん。4年ほど前から羽田を中心に空港などへ通い、撮影をしています。
今回、「写真家たちの新しい物語」にご出展いただく松井一記さんに、空港や飛行機に惹きつけられる理由や、撮影へのこだわりなどについて伺いました。

プロフィール

松井 一記

Matsui Kazuki

1979年、千葉県生まれ。
日本大学大学院理工学研究科精密機械工学専攻修了。
経済産業省入省、原子力規制庁に所属。

自己紹介をお願いします。

松井一記(まついかずき)と申します。仕事は写真とは関係のない仕事をしておりますが、飛行機をテーマに羽田空港を中心に撮影をしています。

何年くらい撮影を続けているのですか。

  • [image]©MATSUI KZ

    写真撮影を始めたのは2018年の夏頃でした。もともと空港や駅など、人が行き交うターミナルの雰囲気が好きで、空港にもよく足を運んでいました。そんな時、空港の展望デッキで写真を撮っている人を見て写真に興味が湧き、カメラを買ったのがスタートでした。

「人が行き交うターミナルの雰囲気が好き」とのことですが、具体的にはどのようなところに惹かれるのでしょうか。

空港や駅の行先表示板に、日本各地の地名や海外の都市名がたくさん並んでいるのを見るだけで、どこか遠くへ連れて行ってくれるような気持ちになりますし、さまざまな人がそれぞれの目的をもって行き交うにぎやかな雰囲気に旅情を感じます。飛行機に乗らなくとも、空港にふらりと出かけたくなるような魅力があります。

今回の展示作品には整備士さんなどの空港で働く方を撮影した作品もありますが、そういった働いている方々の雰囲気も含めてお好きなのでしょうか?

  • [image]©MATSUI KZ

    そうですね。飛行機に集う人々も含め撮影の主題にしています。実は、以前から空港にいて不思議に思うことがありました。それは、大勢の人が性別、年齢に関係なく飛行機にスマートフォンやカメラを向け、飛んで行く飛行機に手を振っている姿です。その様子を見て、なぜ特定の人だけでなく、多くの人が飛行機を慕うのだろうかと不思議に思っていました。ですので、飛行機という乗り物には、人を惹きつける何か普遍的な魅力があるのではないかと思い、飛行機を主題にした撮影を続けています。そのようなきっかけで撮影を始めましたので、飛行機の機体だけでなく、飛行機とその周囲の風景や人々が織りなす情景もテーマにしています。

作品の構図や色などは、どのようにイメージされて撮影されていますか。

  • [image]©MATSUI KZ

    撮影する際、構図について特別に意識はしていません。ただ、写真を撮り始める前、私は美術館や博物館に頻繁に訪れ、絵画やリトグラフ、陶器や書などに接しては、気になったものがあれば自分の中で考察をするといったことをよく行っていました。街の広告や企業CMなどを見ても同様です。その影響からか、「バランスが良い」や、「すわりが良い」と感じる構図のイメージが自分の中にあると感じており、そういった感覚を頼りに撮影をしています。

また、色については、色そのものを変えることはできませんが、切り取り方次第でどの色を画角に入れるかはできるので、どの色を入れて作品に仕上げるかを意識して撮影をしています。例えば、こちらの夜に撮影した流し撮りの写真。路面には青と黄色が配色され、機体のカンパニーカラーとシンクロしています。他の航空会社の飛行機も撮影しましたが、この情景においては色という観点でこの機体を選択しました。このように、写真の中にどの色を取り込むか、情景を見ながら判断することがあります。

撮影時の具体的なエピソードを教えていただけますか?

鹿児島空港の展望デッキでのことです。小さなセスナ機が飛び立とうとした時、手を振りながらデッキの端から端まで走って追いかける女性がいました。そのセスナ機にご家族か恋人でも乗っていたのでしょうか。セスナが空を飛んだ喜びを、その女性は全身で表現されていました。

先ほど「飛行機には人を惹きつける普遍的な魅力があるのかもしれない」と話しましたが、この出来事からも「空を飛ぶということは、我々に喜びを与えてくれる」ということを肌で感じさせてくれました。その女性の姿を写真という形では残せませんでしたが、その時の光景は私にとって「航空写真というテーマを自分の中でどう定義していくか」を考える出来事になりました。

撮影される時に注意している点、こだわるところは何ですか?

基本的には、撮影現場では難しいことをあまり考えていません。眼前に広がる光景の中から、何かを感じてシャッターを切るわけですよね。目の前に雄大な虹が出た時の感動だけでなく、一瞬だけ放たれる光やパターン、先ほど述べたような人が織りなす出来事などにも何かを感じ、切り取ることができるかが大切なのだろうと思っています。ですので、小さな出来事でもそこから何か感動できるものはないかといった感覚を持ち続けるように意識しています。

今回の展示では、飛んでいる飛行機を横から撮影したように見える作品がいくつかありますが、実はその作品は地上や空港の対岸から撮影していると教えていただきました。どのように撮影場所を見つけているのでしょうか。

私の場合、空港にもよりますが、撮影場所は歩いて探すことが多いです。歩いていると景色がゆっくりと流れるので、なかなか気づくことができない面白い場所を見つけられることがあります。また、時には地図を見て飛行ルートを予想し、どのように飛行機が見えそうかを想像して撮影場所を考えることもあります。思い通りにならないこともありますし、反対に想像以上の画を撮影できることもあります。

「想像以上の画になった写真」は、今回の展示作品のなかにございますか。

はい。例えば、メインビジュアルである雪山を背景に飛行機が飛んでいる写真は、函館で撮影をしていますが、飛行機から10km以上離れた所から撮っています。飛行ルートは事前に分かっていたので、飛行機を撮影することは出来るだろうとは思っていましたが、このような画に仕上がるとは思っていませんでした。遠くから見る山肌の表情とその稜線、そして空の色がとても絵画的な雰囲気を醸し、想像を超えるものとなりました。

それでは「小さな出来事でも何か感動できるものはないか」とのお話しいただきましたが、そちらも今回の展示作品のなかにはございますか。

  • [image]©MATSUI KZ

    例えばこの写真は、飛行機が着陸した後、滑走路から脇の誘導路に移動していく姿を撮影したものです。その一瞬、エンジンからの排気が背景の誘導灯の光に重なり、色鮮やかなブラストになって現れる瞬間がありました。空気の中で、あたかもパレット上で絵具をまぜたかのように光が混ざり合い、新たな色彩を放っていることに気がつきました。

  • [image]©MATSUI KZ

    そして、出来事への感動を切り取ったのがこの写真です。主役は子供を両手に抱え、展望デッキから飛行機を見せているお母さんです。そこに機体がやってきた時、尾翼の鶴がお母さんに何か話しかけているように思え撮影しました。鶴が何か声をかけているように感じませんか。そのように想像して見ると、何かそこにはストーリーがあるような気がしてきます。

飛行機に詳しい方も詳しくない方もいろいろな驚きや発見がありそうな展示ですね。

展示作品のプリントをご覧になって、どう感じましたか?

普段は、自宅にあるインクジェットプリンターで写真を印刷しています。以前、銀写真プリントを光沢紙でプリントしたことがあるのですが、発色性とその透明感にとても良い印象を持っていました。一方で、無光沢紙に対して銀写真は不得意なのではと勝手ながら思っていました。今回、先ほどの雪山の写真をプリントする際、この写真には光沢紙は合わないと考えていましたので、無光沢紙を使うことにしましたが、正直なところ不安でした。しかし、仕上がりを見ると山肌の質感は繊細に描写され、色の深みや美しいグラデーションからとても趣が感じられる写真になり、とても驚きました。

写真は、紙の面種(めんしゅ)によって写真の見え方が変わるため、プリントすることが好きですね。この写真にはどの面種が相応しいか考えるのも、写真の楽しみの一つだと思います。今回、銀写真プリントを使用しましたが、光沢紙だけでなく半光沢紙や無光沢紙、それぞれに個性があり、きれいな発色と質感表現が富んでいると感じました。超光沢紙も素晴らしかったです。

今回の展示でもプリントする面種に悩まれていましたね。

写真展が作品を見せる他の手段と違う点は、面種を選べることだと思いました。例えば、写真集と比較すると展示順序、大きさ、配置については写真展の方が自由度は高いものの、写真集でも紙面上で、ある程度自由に構成することができます。しかし、面種に関しては、写真集では写真ごとやページごとに使い分けることは基本的に難しくなります。それならば、面種を選べるという写真展の特徴を活かしてみようと思いました。

最初は、作品一枚一枚に適した面種を選んだので、使用する面種がとても多くなってしまいました。鑑賞する方へのストレスを考慮したり、統一感を持たせることも大事ですので、最終的にはひとつの壁面に展示する作品は同じ面種に原則として統一しつつ、会場全体では複数種類の面種を使用しました。

紙の違いも意識しながら作品を観ると、より楽しめそうですね。

展示の「色」にはどのようにこだわりましたか?

色は難しいです。考えがまとまらない時もありましたが、最初に良いと思った配色に立ち戻ることが多かったです。

一点一点の見せ方と、展示全体としての統一感のバランスに悩まれていたかと思います。

そうですね。ひとつひとつの作品はその状況ごとに違う意味を持っていますので、まずはどうグループ化し、順序を組むかを考えました。しかし、これら作品を壁面にどう配置するか、とても悩みました。今回、展示するスペースには壁面が8面あり、横幅や高さも一定ではありません。さらに、施設の外からも見える壁面があり、これをどう活かそうかなども考え出すと、最初に考えていたようには構成できませんでした。さらに、先ほど述べたように面種の問題もありました。このように、あまりに変動する要素が多く、3次、4次関数の方程式でも解いているかのようでした。何度も展示会場に足を運んではイメージを膨らまし、解決していきました。振り返ると大変でしたが、とても勉強になったと思っています。

最後に、この記事をご覧の皆さまへメッセージをお願いいたします。

ここ数年、自由な移動ができない日々が続き、皆さんも飛行機に乗る機会も減ってしまったのではないでしょうか。コロナの不安もいまだ消えない状況が続いています。

「飛行機には人を惹きつける普遍的な魅力があるのかもしれない」と先ほど話しました。この写真展を通じ、飛行機が持つ人を惹きつけるその「何か」を感じ、空を見上げるように、少しでも前向きな気持ちになっていただけたら幸いです。