水没林を撮影し始めたきっかけは何ですか?
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私は、15年ほど前から、趣味のフライ・フィッシングをしに、水没林のある白川湖上流の白川に通っていました。そして7年程前に水没林のある場所を訪れたんです。4月中旬でしたが、まだ雪が数メートルほど残っていました。零下の気温の早朝は霧が広がっていて、光が差し込むとその霧が輝きだし、とても幻想的な光景でした。その時、「この場所を写真で伝えたい」と思ったのが水没林を撮影し始めたきっかけで、それ以降、撮影を続けています。
小関さんにとって、水没林の風景の魅力は何ですか?
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白川湖は白川ダムの最上流部にあり、日本百名山である飯豊山を中心とした山々から、春には雪解け水が流れ込みます。水没林はこの雪解け水が流れ込むことによって水没林が生まれるんです。通常、木は地面から生えていますが、水没林となる4月中旬から5月中旬の1か月間は、まるで木が水面から生えているように感じることができます。木々が水面の静かな湖面に映し出されることによって、まるで現実ではないかのような錯覚に陥ってしまう幻想的な光景を見ることができます。そういったところが水没林の魅力です。
水没林の風景を撮影する中でのエピソードがあったら教えてください
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2020年は稀にみる暖冬で、とても雪が少なかった年でした。冬の終わりごろに水没林に行くと、水かさが増えはじめて既に水没林ができつつあり、沢山の鳥が巣作りを始めていました。見ると、その鳥はそれまでほとんど山形県で見ることのなかったカワウでした。カワウは長良川の鵜飼で知られているとおり、アユやヤマメなど渓流魚を獲ることがとても得意な鳥です。近年、カワウは全国で生息域を拡大しており、渓流魚が食いつくされてしまう被害が起きています。私は釣り人なので、ヤマメなどの魚がいなくなってしまうと困りますし、悲しい気持ちになるというか、私にとってカワウはまさに「招かれざる客」でした。これまでいなかったところにカワウが生息しはじめたのは、おそらく昨今の気候変動や地球温暖化に関連しているのでしょう。
ただ、水没林にいるカワウの撮影を続けるなかで、私の気持ちに変化が起きました。カワウはクチバシで枝を運び、つがいで巣を作り、卵を産み、温めていて、そのような命を次の世代につなぐカワウの行動を見ていると、とても微笑ましい気持ちになったのです。「招かれざる客」だったカワウが微笑ましい様子を見せてくれている、ということに私はとても不思議な気持ちになりました。
今回の写真展では、そうしたカワウの家族やつがいの様子を見ることができますので、ご覧いただけましたら幸いです。
撮影する中で気を付けていることやこだわりは何ですか?
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鳥など生き物を撮影する際は、近づきすぎて彼らが別の行動をとることにならないように注意しています。また、白川湖の水没林に霧が発生し、山手から朝日が差し込む時、その朝日によって霧が輝きだしたり、赤く染まったりと様々な変化が起きますので、その変化をとらえることに特にこだわって撮影しています。そして、霧と光の状況によって光景は絶えず変化を続けているので、そうした一瞬の変化・・色合いや霧、靄の様子などが最も美しいと思える瞬間を写真で捉えたいと考えています。その瞬間をしっかりととらえられるよう撮影しています。
動画をご覧の皆さまにメッセージをお願いします。
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私の暮らす山形県をはじめとした東北地方には、まだまだ知られていない美しい光景が残っています。ぜひ写真展にご来場いただいて、幻想的な世界を少しでも感じていただければ嬉しいです。また、今回の写真展に合わせて、写真集「霧幻の水森(むげんのもり)」を冬青社より出版することとなり、会場でも販売させていただきます。写真展と写真集とでは写真の構成内容を変えており、どちらも楽しんでいただける内容となっております。ぜひご来場いただけましたら幸いです。