富士フイルムフォトコンテスト総評

審査員:田沼武能
現実を的確にとらえたものには、写真に内容があり、力がある
富士フイルムフォトコンテストの審査は2009年以来で、今回は全応募作品(20,546点)を一人で審査するという、かなりハード(実質2日半余り)なものでしたが、賞決定後の満足感はこの上ない喜びでした。
応募作品は幅広い年齢層と女性からの応募も多く、色々な視点から生まれたものや中身の濃いものなど、バラエティに富んだ作品に数多く出合えました。カメラ機能の進化に伴い、写すことが至難の技であった時代から、写る内容選びにエネルギーを専念できる時代になったからだと思われます。そのことが応募点数、女性の増加にもつながっているのでしょう。最初の予選を通過した作品を振り返ってみますと、写真のレベルが上がり優劣がつけがたいものがたくさんありました。それは前述しましたように、写すことが難しかった時代から失敗なく写ることがごく当たり前になっている背景があります。その中から上位に上がってくる作品は、「何を撮って何を見る人に伝えたいのか」、「感動がどれだけ伝えられるのかの強弱」が票を得たポイントと解釈していただきたい。
応募作品全体の印象は、素晴らしいアイデアを駆使したものが数多くありました。ただ写真的には良くできていても演出過多になると、実事を伝えるのではなく、映画の一場面を作っているような印象が出てしまいます。表情一つにしても緊張感や空気感が感じられず、長く見ていると飽きてしまう。やはり写真は現代を切り取り作者の感動を伝えるメディアです。過度な演出に頼らずに現実をとらえてほしかった。もう一つはデジタル時代になり、便利になった画像の加工がどこまで許されるかということです。非常に悩みます。作り上げている画像が凄く精密で、その真贋のほどが分からなくなってきています。絵画を描いている人達は、現実を自分の主観で描いていますが、写真は事実を写し撮るものであるという観念があって、ここ最近のデジタルにおいてはいささか違ってきているのではというのが、僕のコンテスト作品を見ての印象です。今までの銀塩の写真は覆い焼きをしたり、焼き込みをしたりする程度の加工でしたが、近年のデジタル加工はそれを遙かに超えた、創作的画像を作り上げてきております。絵画が写真の出現によりリアリズム絵画が主観主義などに変化していった時代に似ています。
あの土門拳が、非演出を強調していたリアリズム全盛期の時代がありました。その時代が過ぎ去り、写真をいかに上手く見せるかというように変わってきております。でも現実を的確にとらえたものは、凄い説得力があり、写真に力があります。ですから、写真がスピーキングするような作品を作り上げてほしい。小手先だけで仕上げるのではなく、内容のある飽きの来ない写真が必要だと思います。いずれにしても写真が本当に上手くなって、失敗作というのがなくなった現在、内容ある写真が求められている。これが現代です。
審査:丹地敏明
感動を記録した純粋な写真に仕上げることが重要
富士フイルムフォトコンテストのネイチャー部門を久しぶりに審査させていただきました。応募総数が大幅に増加し、日本のフォトコンテストで最高の名誉を頂くコンテストであると改めて感じ、緊張感を持ちながら2日間にわたり総ての応募作品を楽しく拝見いたしました。
審査に当たってはネイチャーフォトとして最低限のルールやマナーは守られているか、当然のことですが応募規定に違反していないかなどをまずチェックします。皆さんもまずこの点を確実に考慮するようにしてください。
また、近年デジタルカメラの普及で手持ち撮影が多くなったように感じますが、微小ブレの写真作品が意外にあることが残念でなりません。手ぶれ補正カメラ・レンズを使用されているのでしょうが、補正するだけでブレないという保証はありません。三脚を使用するかしないに関わらず、カメラブレしないよう大切に撮影したいものです。
さらにネイチャーフォトに関心を持つとき、特に考えなければならないことがあります。それは過去に入賞した類似作品の応募は避けるということです。ご自身の習作としては良いと思いますが、自分らしさを追求した写真作品を応募していただきたいと思いました。
今回の入賞作品は、個性的でリアリズムを追求した素晴らしい写真作品が多く、甲乙つけがたい作品群でした。選考時点で珍しい自然現象があるということを教えられたり、感動したり、キチンと見てくれよなどと主張する作品を感じながら拝見いたしました。
ネイチャーフォトで特筆したいことは、身近なところでも予想以上に自然を撮影できることです。またとらえ方としては最初から撮影したいモチーフを構図で見るのではなく、自分が好いと感じた部分を生かす工夫が構図にあることを再認識し、自分らしさを丹念に丁寧に表現してほしいと思いました。ネイチャーフォトは合成や加工した写真ではなく、リアリズムを追求し自分自身の感動を記録した純粋な写真に仕上げることが重要です。作品にしようと思えば思うほど素直な気持ちが希薄に写ってしまいます。丹念に丁寧にということは、撮影意図や意義を明確にすることです。背景のボケ具合・絞り値やシャッター速度・カメラポジション・色彩など細かく見ることです。そして、カメラのファインダーでフレームを決めるのではなく、肉眼でよく観察した後その部分にズーミングしたり近づいたりして自分らしさを求めてフレーミングを完成することではないでしょうか。
次回も、さらにリアリズムを追求し自分らしさを表現した写真作品のご応募を期待し、フジコン大賞がネイチャーフォト部門から選ばれるよう頑張ってください。
審査員:テラウチマサト
フォトブックとは何かということを再考したい
フォトブック部門ができて3回目になります。その前の特別テーマ部門を含めると4回目となるフォトブック部門ですが、過去4回の中で最も充実した年になったと思います。大賞はもちろんのこと、審査品特別賞の5点も見方によっては去年の大賞に匹敵するくらいのレベルで、それぞれが拮抗していたと思います。もっと言えば入選も含めて非常にレベルが上がっており、フォトブックに対する考え方や「怖じ気」みたいなものがなくなって、果敢に自由自在にチャレンジできている面白さを感じる作品が数多くありました。
そんな中で、あえて次回のための助言としますと、フォトブックを作ることに慣れて(慣れるのはよいですが)しまったことで、緊張感の薄れることによる安直さが、一部の作品の中に少し見受けられました。また、フォトブックの構成ですが、表紙と1枚目、そしてラストの写真は何を使うかというのを、しっかり考えてほしいなと思います。一番いい写真を表紙に持ってくるのも一つの考え方ですが、ページをめくったとき中面がまるで期待はずれになってしまっては失敗です。例えば、ミュージシャンのベストアルバム。1曲目を何にしよう、2曲目はこれでいこうという感覚で、写真を並べるということを考えてもらったらいいなと思います。野球の順番を考えるみたいにです。
「フォトブックとは」ということを審査しながら考えましたが、他の自由写真部門や、ネイチャーフォト部門のように1枚の写真で勝負するものではありません。けれども、写真の質が悪ければ落ちてしまうわけで、フォトブックとは何かということをもう一度それぞれ出展者が考えて、応募する時期に来ているのかなと思います。
私の意見としては、「理想のフォトブックとは」アルバムではない。フォトブックは、家族や自分たちだけが楽しむためのモノではなく、誰かに何かを伝え見知らぬ第三者に以心伝心していくモノ、その点がアルバムとは違うと思います。また非常に微妙なニュアンスですが、写真集とフォトブックとは棲み分けがあっていいと思います。フォトブックを日本語に直すと写真集となりますが、フォトブックだからこそできる作品があると思います。それが写真集とどう違うのかという部分は、時間経過と共に創り出していけるのではないかと感じました。
今回選ばれた大賞と審査員特別賞は、非常に様々なジャンルに渡っています。それは、フォトブックの新たな可能性が今回のコンテストを通して生まれてきたのではないかなと思います。今まではある傾向に流れていましたが、今回はポートレート作品や昔からの家族アルバム的な運動会の写真で構成した作品もありました。また純粋な写真集としてでも通用する作品もありましたし、写真でしか伝えられない写真的言語に満ち溢れた作品も上位に数多くありました。それらが非常にレベルの高い作品であったことが、審査の印象として強く残っています。
第52回富士フイルムフォトコンテスト
撮影者の意図がストレートに伝わってくる力作
今年度で52回を迎える「富士フイルムフォトコンテスト」は、35,701点もの作品をご応募いただき、3年連続で前年度を上回る方々にコンテストにご参加していただくことが出来ました。これもひとえに全国の写真愛好家の皆様のご支援の賜物と深く感謝いたしております。

応募作品を拝見させていただき、強く感じたのは応募された皆様がより自由に写真を楽しむようになったのではないか、ということです。被写体や構図、撮影手法の工夫だけでなく、デジタルカメラが主流になっている現在では、撮影後にもデータに手を加えられるようになっております。加工作品の応募も可能な自由写真部門やフォトブック部門の応募作品の中には、そういった新たな手法を取り入れ、シーンの世界観を強調したり、被写体を際立たせたりするなどの工夫がなされ、より自由に「個性」が発揮されていました。

多種多様の応募作品が寄せられ、例年にも増して充実した内容の作品が多く集まった中で、昨年度同様、今年度もメッセージ性があり、良い意味で「分かりやすい」作品が多く上位に入賞いたしました。「作品を見た後にどのような気持ちになってほしいか」がストレートに表現されている作品が多く、審査に当たられた先生方も非常に感心されておりました。

1950年に第一回が開催されて以来、半世紀以上にわたってコンテストを開催して参りましたが、今後も写真愛好家の皆様に楽しんでいただけるよう、より良いコンテンツをご提供できるよう、尽力して参ります。
今後も富士フイルムフォトコンテストにご支援を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
富士フイルム株式会社

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