富士フイルムが運営する写真展(東京・六本木)

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富士フイルムが運営する写真展(東京・六本木)

伊坂幸太郎氏の作品を始め、多くの小説の表紙を飾る!
Rieko Honmaさんの素顔に迫る特別インタビュー

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2021.12.17

写真を表現手段に、この世界に存在する目に見えない様々な境界線を表現し続けているRieko Honmaさん。その作品は、伊坂幸太郎氏の『バイバイ、ブラックバード』新装版など、小説の表紙にも多数採用されています。
今回、「写真家たちの新しい物語」にご出展いただくRieko Honmaさんに、作品制作への想いや、撮影におけるこだわりについて伺いました。

プロフィール

Rieko Honma (りえこ ほんま)

2010年より独学で写真を表現手段に作品制作を始める。
「白日夢」「少女たちの脆さ、不安定さ」「心の中と現実の境界線」などをテーマに写真によって形のないものに形を与えたいと思い表現し続けている。
伊坂幸太郎著『バイバイ、ブラックバード』新装版(双葉文庫、2021年2月)や李琴峰著『星月夜』(集英社、2020年7月)など、小説の表紙にも多数採用されている。

私にとって、写真を撮ることは現実逃避の手段でもある。
どこか奇妙な空気感、いびつさがもつ美しさ、不完全であるがゆえの調和。
不可思議な夢のような描写は、現実逃避願望のあらわれかもしれない。

いつ頃から写真を撮られていたのですか?

子どもの頃から写真を撮ることが好きで、中高生の時はいつも「写ルンです」を持ち歩いていました。作品制作を意識して撮るようになったのは2010年頃からです。「白日夢」「少女たちの脆さ、不安定さ」「心の中と現実の境界線」などをテーマに、いくつかのシリーズで表現しています。インスピレーションは、基本的に自分が見た夢の描写から受けています。

写真展のテーマについて教えてください。

  • 今回のテーマは「白日夢」です。「白日夢」の意味はいくつかありますが、私の場合は「非現実的な空想や、願望を空想すること」というイメージが近いです。私には(ハッピーエンドではない)バッドエンドに対する耐性がなく、映画や小説などで悲しい結末を見たり読んだりした後、しばらくは気分が落ち込んでしまいます。子どもの頃観た映画『アンネの日記』の悲しい結末が今でもトラウマになっています。そして、今回のテーマはカズオイシグロさんの小説が原作の映画『私を離さないで」という作品にも強く影響を受けています。

『私を離さないで」は、臓器提供のために生まれた子どもたちが、自分たちの最期を知りながら短い人生を歩んでいくという物語です。特に途中の逃避行のシーンが強く印象に残っています。辛くて重い話ですが、映像がとても美しいため、いつまでも頭から離れません。そして、私自身、悲しい結末に対する耐性がないからこそ、バッドエンドの物語を自分の中でハッピーエンドに変えてしまうことがあります。今回は、自分の頭の中で勝手にハッピーエンドに書き換えた逃避行の物語の挿絵を描く感覚で表現しています。作品自体は物悲しい雰囲気があるかもしれませんが、実は自分の中ではハッピーエンドへ繋がっています。自己紹介で述べたように、作品にはいくつかのシリーズがあり、基本的にインスピレーションは自分が見た夢の描写です。その中でも、今回の「白日夢」はハッピーエンドだったらいいなという裏設定を形にしています。

「写真」をHonmaさんの物語の表現手段に選んだのはどうしてですか?

  • 写真が好きだからです。2010年頃に友人の作品制作を手伝う機会があり、その作品がアートギャラリーに飾られているのを見たときに、アートの世界ではこのような表現ができるのかと感動しました。「私も何か表現したい」と思い立ち、もともと好きだった写真を選びました。記録やドキュメンタリーなど、写真は事実を撮る側面がありますが、私は虚構や非現実的な幻想を表現する手段として写真を用いています。

また、私の中で、写真を撮ることは現実逃避と同じです。と言ってもネガティブな意味ではなく、「抑圧されたものを解き放つ」というような良い意味で使っています。いわゆる作り込みと言われる分野になりますが、その時のモデルさんの感情も大切にして撮っています。例えば、私が写真を撮りだして間もない頃、とても悲しいことがあった友人に「この気持ちを水葬で弔いたい」と言われ撮影したことがありました。シェイクスピアの「オフィーリア」のように彼女を水に浮かべて撮影したのですが、この経験が「このような表現方法があるのだな」と気づくきっかけとなりました。

撮影でこだわっていることを教えてください。

  • 3つあります。1つめは、全体的に夢のような描写にしたいので、現実感のある情報をなるべく排除して、美しいと思える情景や自然を背景に撮影することです。例えば、人工的なものがあると、すぐ現実に引き戻されてしまうので、飲食店の看板や電線、信号などは映らないようにしています。2つめは、モデルさんのその時々の感情を大切にしたいので、モデルさんが感情移入できる音楽を流しながら撮影することです。3つめは、モデルさんと撮影前に入念にコミュニケーションをとってから撮影することです。被写体はモデル経験のない友人も多く、私の自宅に一泊してもらい、どういったものを撮りたいか話し合って、次の日の撮影に臨むこともあります。

ご自身の撮りたいイメージを共有したうえで、構図や場所などをモデルさんと相談しながら一緒に作品を作り上げていくというイメージでしょうか。

そうです。以前、友人のウェディングドレス姿を撮影する機会がありました。一般的には結婚は「ハッピー」というイメージがありますが、友人にとっては「自由との別れ」という側面もありました。嬉しさだけではなく相反する寂しさも撮ろうと一晩中語り合い、明け方に撮影しました。場当たり的ではありましたが、楽しかったです。新潟県は自然がきれいなので、撮影もそのような景観が見える場所で行っています。

基本的に新潟県で撮影されているのですか。

はい、今回展示する写真は全て新潟で撮影しました。ロケーションが良く、東京に比べ人が少ないので撮影しやすいです。私自身、開放的な景観が好きなので、特に人工物が映らないようにするためには建築物が少ない場所が多くて良いです。

展示作品を拝見すると、背景と被写体、2つに絞って撮影されていることがよくわかります。

作品のイメージのために他の情報はない方が良いと思っています。

撮影でこだわっていることの続きになりますが、色の組み合わせを大切にして、部屋に飾りたくなるような作品を制作することもこだわりの1つです。例えば、今回の展示ではありませんが、「1/f -yuragi-」というシリーズでは、わざとぶらした写真を撮影しました。モデルさんには「青と黄色の場所で撮影するから、オレンジ色の服を着て」とお願いし、絵の具の色を混ぜるように色の組み合わせのイメージを決めてから撮影しています。写真というよりは絵のように、見ていて気持ちの良いものを目指しました。写真集は見たい気分の時に見ますが、部屋に飾る作品は日常的に目に入ります。インパクトのある写真ではなく、「ただ好きだから」といって手に取ってもらえるような作品を目指したのが「1/f -yuragi-」のシリーズです。夢からのインスピレーションを受けていて、具体的な描写ではなく抽象的なものにしています。

展示で工夫されている点や来場者の方に見ていただきたい点は何でしょうか。

  • 普段の展示では私ひとりで構想をしていますが、今回はディレクターの方に協力いただき、相談しながらレイアウトなどを決めていきました。他者の目線でアドバイスをいただく貴重な経験となりました。「展示作品を整然と並べるのではなく、秩序立てずごちゃごちゃしたイメージにしたい」と私がリクエストしたところ、「平面ではなく立体やインスタレーション要素を含む展示にしましょう」と言ってくださいました。写真が見えにくくなってしまう懸念もあったのですが、ここはあえて乱雑な状態の展示方法にしました。

また、コロナの影響で、本展示の開催時期が1年延期になり、私自身にとっても3年ぶりの展示です。私の作品を見るのは初めての方も多いと思うので、たくさんの方に見ていただけたら嬉しいです。ご来場くださった方には、ひとつひとつの作品を見るというよりは全体的な空気感を味わってほしいと思います。よく暗い印象をもたれることがありますが、冒頭述べたように、自分の中で「白日夢」には「ハッピーエンドに向かう女の子たち」という裏設定があり、幸せな物語を想像していただければ幸いです。

この記事をご覧の方にメッセージをお願いします。

  • まずはこのような作品を撮っている人がいる、ということを知っていただけたら嬉しいです。今回の展示が決まってから、作品を小説の表紙に使用していただくお話もいただきました。展示作品の1つ「祈り」は、第165回芥川賞を受賞された李琴峰さんの(受賞前の)小説の表紙になりました。また、黒い服を着た女性5人が海にいる作品は、伊坂幸太郎さんの『バイバイ、ブラックバード」という小説の表紙にもなっています。実は私は伊坂幸太郎さんのファンで、何年か前にどんな人が伊坂さんの小説の表紙を飾れるのだろうかと調べたことがありました。それくらい思い入れのある方でしたので、自分の作品が伊坂幸太郎さんの小説の表紙になり本当に夢が叶った感覚です。今回はそういった作品も展示するので是非実際にご覧いただきたいです。